情報と表現(旧)
授業シラバス
はじめに
杉本が担当している専門選択科目「情報と表現」の授業シラバスです。
本科目は、「UXデザイン」と「心理学」を学ぶ、工学・マーケティング学・心理学領域の科目です。様々な問題を、ヒトの生体的特性を基盤とするUXデザインによって検討し、得られた解決策を効果的に表現できるようになることが目標です。
情報系科目に分類されていますが、コンピュータを扱う科目ではないため、コンピュータの知識や操作技術を学ぶことは出来ません(情報科=コンピュータのイメージがあるかもしれないが必ずしもそうではない)。1・2年の情報の授業とは全く異なる科目です。履修にあたっては、高度なPC技術は一切不要で、一般的な発表スライドを作ることができれば十分です。課題にかかる負担は平均レベルです。
UXデザイン
UXデザインとは、製品やサービスのデザインにおいて、利用者の体験価値(User eXperience)を充足することを目指す、工学やマーケティング学の領域の比較的新しいデザイン理念です。本科目では、UXデザインを体験的に学び、個人や社会が抱える問題を解決するための製品サービスを考えることを通じて、Well-Beingの充足されたより良い人間社会のあり方を模索します。
デザインと聞くと、グラフィックデザイン(イラスト/雑誌/映画など)や、インダストリアルデザイン(車/建物/衣服など)を思い浮かべる高校生が多いと思いますが、UXデザインはそれらとは全く異なる理念です。モノの見やすさや使いやすさなどを追求する従来の設計思想から視点を大きく転換し、製品サービスの利用者側の体験をデザインすることを目的としています。その目的のためには、工学や芸術のみならず、心理学、文化人類学、情報学、社会学、数学など、多種多様な学問体系を網羅的に学ぶ必要があります。
本科目では、人間中心設計(国際規格ISO:9241-210)の考え方に準拠しつつ、UXデザインを実践するための基本フローを学びます。その過程で、質的社会調査法、質的データ分析法、情報の視覚化技術、手描きグラフィック技術などを学習します。さらに、「Industry4.0」や「Society5.0」の理念に基づき、次世代産業を支える3つの中核的情報技術「IoT技術/ビッグデータ/人工知能」を用いて、SDGs目標の達成に繋がるサスティナブルなデザインアイデアを生み出せるようになることを目指します。
UXという考え方は、すでにほとんどの企業で浸透しています。企業の経営にあたっては、UXを念頭においた企業活動が当たり前となってきています。さらに最近では、SDGs関連事業を筆頭に、様々な公共政策にUXの考え方が導入されつつあります。「フードロスを減らすには?」「海洋プラスチック問題を解決するには?」「魅力的な自動運転車とは?」「都市にとって最適なレンタサイクルサービスは?」など、あらゆる問題がUXデザインによる解決の対象です。UXデザインの技能は、様々な問題に対して実効性の高い解決策を生み出す武器になります。
※レイアウトや配色などのグラフィックデザインは本科目の主題ではありませんのでご注意ください。扱う内容の性質上、ワークショップを頻繁に行います。UXデザインでは、手描きによるイラストレーションが重視されます。
心理学
UXデザインではヒトの心理的・生理的特性の理解が欠かせないため、本科目では心理学(主に認知心理学と社会心理学)も広く学びます。扱う内容は「注意と感覚と知覚/学習と記憶/美と魅力と嫌悪/顔認知/社会的認知/コミュニケーション/認知バイアス/ステレオタイプと偏見と差別/身体と運動/サイボーグ/ニューロサイエンス/個人特性と個人差/障害と多様性/ウェルビーイング」などを予定しています。適宜、文化人類学の主要テーマと絡めた議論も展開します。
基礎的な心理実験を実際に体験する機会を複数回設けますので、実験法を用いた心理学研究のイメージを掴むことができます。進路選択の参考となるように授業展開しますので、大学において心理学専攻や認知科学専攻を検討している場合は、自身がそれらの学問分野に合っているかを判断するために履修を推奨します。
2学期に行う輪読会にて、「宮崎・阿部・山田他(2017)『日常と非日常からみるこころと脳の科学』(コロナ社)」という心理学専門書を扱います。
現代アート
現代アートとは、社会に問題提起するアートのことです(定義は諸説あり)。現代アートは様々なメディア表現技術を駆使して、社会に潜む問題を感覚的に顕在化したり、未来の人類のあり方を提案したりします。本科目では、コンセプチュアルアート、メディアアート、インスタレーション、ボディアート、バイオアートなどのアートサイエンス、スペキュラティブデザインなどの様々な現代アートの世界をご紹介します。これらの芸術表現に触れることで、Well-Beingに対する理解を再構築した上で、より良い社会環境を考えることを目指します。
ポートフォリオ
授業の最後では、自ら考えたデザインアイデアをまとめるポートフォリオを制作します。ポートフォリオとは、デザイナー業界の就職活動において必須となる履歴書のようなもので、自分がこれまでに創出してきた(あるいは構想中の)デザイン作品をまとめたものです。自ら生み出したデザインを効果的に表現し、自らのデザイニング能力を他者に訴えかけることが求められます。
想定履修者
「製品サービスの企画設計、デザインシンキング、工学、心理学、マーケティング」などに興味がある人に、履修を推奨します。文理は問いません。高度なPC技術は一切不要で、一般的な発表スライドを作ることができれば十分です。コンピュータの知識や操作技術は習得できませんので、それを目的に履修しないでください。
評価方法
スライド制作、発表、レポート、授業内ワークショップへの参加態度などで評価します。筆記試験は行いません。課題にかかる負担は平均レベルです。
授業計画(各回2コマ100分)
- 第01回
初回ガイダンス、デザインの定義、UXデザイン基礎
- 第02回
アフォーダンス、シグニファイア
- 第03回
UXデザイン①(ユーザーリサーチ)
- 第04回
UXデザイン②(ユーザーモデリング)
- 第05回
IoT(Internet of Things)の基本
- 第06回
UXデザイン③(アイデアデザイニング、アイデアの視覚化)
グラフィックレコーデイング手法を用いたイラストレート技術
情報の視覚化技術(ダイアグラム/アイソメトリック図法) - 第07回
ウェルビーイング・ワークショップ
UXデザインの事例と分析 - 第08回
UXデザイン④(プロトタイピングと評価)
- 第09回
1学期UXデザイン提案発表会①
- 第10回
1学期UXデザイン提案発表会②
- 第11回
認知心理学概論(感覚、知覚、注意、記憶、学習など)
- 第12回
SDGs目標とUXデザインによる達成
- 〜夏季休業期間〜
- 第13回
心理学専門書の輪読発表会①
- 第14回
心理学専門書の輪読発表会②
- 第15回
【心理学各論①】美・魅力・嫌悪
【心理学各論②】顔認知・顔魅力、など - 第16回
【心理学各論③】社会的認知・コミュニケーション
【心理学各論④】ステレオタイプ・偏見・差別、など - 第17回
【心理学各論⑤】認知バイアス・確証バイアス
【心理学各論⑥】身体と自己、など - 第18回
【心理学各論⑦】神経・生理心理学
【心理学各論⑧】感覚融合認知・共感覚、など - 第19回
【心理学各論⑨】個人特性・障害・多様性
【心理学各論⑩】意識・潜在処理、など - 第20回
2学期UXデザイン提案発表会①
- 第21回
2学期UXデザイン提案発表会②
- 第22回
デザインポートフォリオ制作の基礎
- 第23回
現代アート・スペキュラティブデザイン
- 第24回
1年間の総括、進路相談